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東京高等裁判所 昭和50年(う)2449号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大石隆久及び被告人の提出した各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点について。

論旨は要するに、被告人の本件覚せい剤仲介の所為は、覚せい剤取締法四一条の八の周旋に当たり、同条を適用すべきであるのに、原判決が覚せい剤譲渡の幇助として同法一七条三項、四一条の二第一項第二号、刑法六二条一項を適用処断しているのは、法令の適用を誤ったものであるというのである。

そこで検討すると、覚せい剤取締法四一条の八所定の周旋の罪は、昭和四八年一〇月一五日法律第一一四号覚せい剤取締法の一部を改正する法律により新設された規定であるところ、右改正法の主眼点は、最近における覚せい剤犯罪の増加、悪質化と覚せい剤乱用の実態にかんがみ、覚せい剤に関する罰則規定を整備し、麻薬犯罪なみに強化することにあったことが明らかである。そして、覚せい剤譲渡の罪(未遂を含む)で営利目的によらないものについては、その法定刑が従来五年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金で、情状によりこれを併科できるとされていたものが、右の改正により一〇年以下の懲役と重く改められることになり、他方あらたに覚せい剤の譲渡と譲受けとの周旋の罪を規定する四一条の八が設けられたのであるが、その法定刑は三年以下の懲役に止まっているのである。

右のような法改正の背景とその経過に徴して考察すると、右周旋の罪の規定は、麻薬取締法六八条の三と同様に、被周旋者につき譲渡又は譲受けの罪(未遂を含む)が成立しない場合について、なお周旋行為を独立して処罰しようとするものであり、被周旋者につき譲渡又は譲受けの罪(未遂を含む)が成立する場合には、その周旋行為は従来どおりその幇助罪として前の場合よりも重く処罰する趣旨であることが明らかである。

これを本件についてみると、原判決の認定した事実によれば、被告人は田川こと田端則行が寺下雄次に原判示の覚せい剤を譲渡するに際し、寺下への仲介をして田端の犯行を容易にさせたというのであり、右田端について覚せい剤譲渡の罪が成立していることが明らかであるから、被告人の原判示所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項第二号、一七条三項の譲渡の罪の幇助罪に当たるもので、同法四一条の八の周旋罪の規定は適用されないものといわなければならない。したがって、原判決の法令の適用に所論の誤りはなく、論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第二点及び被告人の控訴趣意について。

論旨はいずれも原判決の量刑不当を主張するので、記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌して検討すると、被告人は、昭和四四年ごろ的屋桝屋連合会市橋一家鈴木組の組員となり、同四五年一〇月東京地方裁判所においてわいせつ図画販売目的所持罪により懲役一〇月執行猶予三年の判決を受け、同四九年一月には東京高等裁判所において恐喝、わいせつ文書等販売罪により懲役一年四月に処せられ、同年一二月五日右刑の執行を受け終ったのに、僅か五か月足らずで本件犯行に及んだものであり、本件は、被告人が田川こと田端則行の依頼に応じて極東組組員である寺下雄次に交渉して原判示覚せい剤の売買を仲介したものであり、その犯情は軽視することができない。そして、右のような本件の罪質、態様、被告人の経歴、前科のほか、被告人の年令、性格、行状、家庭の状況等にもかんがみると、被告人が田端と寺下との本件覚せい剤の売買につきそれほど積極的に関与したわけではないこと、現在は静岡急送株式会社に雇われ真面目に働らいており、本件については反省もしていることなど所論の指摘する被告人に有利な事情を斟酌しても、原判決の量刑は相当であって、重きに過ぎて不当であるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野慶二 裁判官 小泉祐康 裁判官内匠和彦は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小野慶二)

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